第5章 アレグレットに加速する心【自分のために】
「君が……?」
「あ、俺、虎杖 悠仁です!」
「初めまして。僕は詞織の兄で、神ノ原 星也。君にはお礼を言わないといけないな。詞織と恵を助けてくれてありがとう」
星也は礼を言うが、詞織へ向けられたような笑みはない。
星也ももともと、詞織のように感情があまり顔に出ないタイプの人間だ。しかし、身内には優しい笑みを見せる。
いつも冷静で、それでいて優しく、強い力を持っている。伏黒にとって憧れの呪術師である。
「それにしても、無茶をしたね。特級呪物を呑み込むなんて」
「いやぁ……俺もまさかこんなことになるとは思ってなくて……」
照れたように虎杖は笑うが、星也は別に褒めているわけではなく、むしろ驚いているのである。
いくら窮地とはいえ、普通はアレを吞み込もうなんて思わない。
しかも、ミイラ化した人間の指。仮に思いついたとして、実行に移せる人間はほんの一握りにすら満たないだろう。
「ね、ね、兄さま。時間ある? 呪術、見て欲しい!」
「いいよ。次の任務があるから、一時間くらいしか時間が取れないけど」
頭を撫でながら、妹の我が儘を聞く星也はどこか嬉しそうだ。
「詞織、星也さんも忙しいだろうし、あんまり無茶は……」
「大丈夫。恵も一緒にどうだい?」
でも、と言い募ろうとするが、星也は困ったような表情をした。