第43章 それはとんでもないトロイメライ【呪術廻戦0】
夏油が星良に接触してきてから一ヶ月が経とうとしていた。
「未だ傑の動向は掴めん。やはり、オマエの杞憂だったんじゃないのか?」
――呪術高専 東京校学長 夜蛾 正道
「残念ながらそれはあり得ないです」
首を捻る夜蛾に、五条は窓の外から乙骨たち一年を見ながら、きっぱり断言する。
直接 現場も確認した。自分が夏油の残穢を間違えるわけがない。
「星也や星良に探らせりゃいいじゃねぇか。できんだろ、なんか色々」
日下部が棒付きキャンディを口の中で転がしながら言うが、五条は首を振った。
「それはもう十年以上も前にやった」
しかし、捜索範囲外で探れなかったらしく、今まで見つけられなかったようだ。
今回のことでもう一度 探らせたが、これもダメ。夏油も【陰陽術式】のことは知っているし、対策されてると考えるのが自然だろう。
そこへタイミングよく、星也が「お疲れさまです」と言いながら、険しい表情でやって来た。
「どうしたよ、星也。いつになく顔色が悪いぞ」
少し揶揄うような日下部に答えることなく、星也は固い声音で言葉を紡ぐ。
「気をつけてください。数日にかけて強い凶兆が出ています。夏油さんが何か仕掛けてくるかも――……」
そこで、真っ先に反応したのは夜蛾だった。サングラスの奥の目を微かに見開き、身を翻す。
「噂をすればだ! 星也の占いが当たってる! 校内にいる準一級以上の術師を正面ロータリーに集めろ‼︎」
「すぐに」
「奴(やっこ)さんのおでましか!」
懐から数枚の札を抜き、星也が招集をかけるべく呪符を校内に飛ばした。その隣で、日下部が軽く舌打ちをしてキャンディを噛み砕く。
飛んでいく呪符を見ながら、五条は拳を握りしめた。
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