第43章 それはとんでもないトロイメライ【呪術廻戦0】
「二人の治療、終わりましたよ」
星良がパタパタと走ってくる。
「姉さん、ありがとう。姉さんは大丈夫?」
「あたしは別に何もないわ。七海さんと灰原さんも一緒だったし」
姉の言葉に、星也は安心したように眉を下げた。
「……あの、皆さん。犯人に心当たりが?」
恐る恐る頭を上げる伊地知に、全員が顔を伏せる中で、五条は深く息を吐き出す。
「伊地知、君も知ってるでしょ」
伊地知も高専出身で、五条の二学年後輩だ。呪術の才能に恵まれず、卒業後は術師ではなく、補助監督の道に進んだ。
その在学中、短い期間だが関わったことがあるはずだ。
「夏油 傑――……最悪の呪詛師だよ」
現在 五人いる特級の一人。
百を超える一般人を呪殺し、呪術高専を追放された男だ。
「星也、警戒しておけ。アイツの狙いは憂太だが、オマエも仲間に引き込みたがってる」
「僕の答えはあのときと変わりません。僕には守りたいものがある」
その言葉に安心している自分がいた。
昼間も顔色が悪かったし、彼が行った任務の報告書にも目を通した。
凄惨な任務、助けられず死んだ人間や被害者遺族にまで感情移入してしまう教え子を心配しているが、彼はどれだけ絶望の淵に立たされても折れない。
守りたいものがある。
その一心で踏みとどまることができる。
五条はニッと口角を上げ、星也の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「ちょっと……!」
「信じてるよ、星也」
迷惑そうに髪を整える星也の肩にポンと手を置き、一同に背を向ける。そして、五条は学長である夜蛾に報告するべく、その場を去った。
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