第43章 それはとんでもないトロイメライ【呪術廻戦0】
「夏油さんは……⁉︎」
「もういません。それより、この呪霊を片づけましょう」
灰原にそう言うと、七海は振り下ろされた棍棒を鉈で受け止める。
一級呪霊 二体に対して、こちらは一級術師が一人と準一級術師が二人の計三人。不足はない。
「【折神操術――猿鬼(えんき)・酉鬼(ゆうき)、犬鬼(けんき)】!」
猿・鳥・犬の折り紙が灰原の呪力を得て鬼へと変じる。相手は一級。この三鬼は、灰原の【折神】の中でも特に戦闘を得意としている。
「星良さん!」
「はい!」
懐から二枚の呪符を取り出し、牛頭と馬頭に向けて飛ばした。
「【符術展開――急々如律令】!」
【停止】と書かれた札に従い、二体の呪霊の動きが止まる。その隙を見逃さず、七海が牛頭へ鉈を振り上げた。
「――そこです!」
【十劃呪法(とうかくじゅほう)】――対象の長さを線分した際の七:三の点へ強制的に弱点を作り出す七海の術式。そこを攻撃することで大ダメージを与えることができる。
七海が鉈で牛頭の腕を切り上げる。
「いけ、三鬼!」
灰原の命令に、酉鬼の鋭いクチバシが馬頭を貫き、犬鬼が脇腹に噛みつき、猿鬼が尖った爪で引き裂いた。
「星良さん!」
「星良ちゃん!」
二人に呼ばれたときには、すでに準備は終わっていた。広げた巻物に文字を書きつける。呪力を込めた墨をたっぷりと含ませて書いた文字――……。
「【書字具現術――巨槍】」
貫け――巻物から光が溢れ、二本の巨大な漆黒の槍が現れる。そして、上空から落下し、二体の呪霊をそれぞれ貫いた。ジュワッと溶けるように呪霊が消える。
「はぁ……二人とも怪我は?」
「問題ありません」
「僕も、かすり傷だよ」
よかった。ほっと胸を撫で下ろすと、「傑!」と五条の声が響いた。