第43章 それはとんでもないトロイメライ【呪術廻戦0】
「それに、あたしはいつだって、星也が誇れる姉でありたいんです」
星也だけではない。詞織や伏黒、津美紀が胸を張って自慢できる存在でありたい。それが、星良の行動指針だ。
「星也君の心が壊れてしまうかもしれないよ」
「あたしの弟を舐めないでもらえます?」
確かに、星也は精神的に弱く見えるかもしれない。
だが、今 ギリギリのラインで踏ん張っているように、どれだけ心が弱っても折れない精神力がある。
「それに、手っ取り早くあの子を味方にしたかったんでしょうけど、残念。あたしがそちらに行っても、星也は来ませんよ」
仮に自分が夏油の側についても、星也は決して一線を越えない。姉を自分の側に取り戻そうと動くはずだ。
「ふふ、そうか。七海と灰原は……聞くまでもなさそうだね」
後ろを少し振り返ると、二人とも臨戦態勢を解くことなく夏油を見据えている。七海の手にはスマートフォンが握られていた。
「……五条さん、そういうわけです」
『止めろ。すぐに行く』
五条の声音が唸るように響き、プツッと音を立てて切れる。
「悟との再会のために待っていたいところだけど、今は時期じゃない。到着の前にお暇させてもらうよ」
「夏油さ……!」
「灰原!」
灰原が立っていた地面が抉るように削れた。同時に馬の頭と牛の頭を持つ人型呪霊――牛頭と馬頭が棍棒を構えて降りて来た。どちらも一級の呪霊だ。