第43章 それはとんでもないトロイメライ【呪術廻戦0】
「乙骨 憂太君の【折本 里香】を見ようと思ったんだけど、ちょっと当てが外れてね……でも、星良ちゃんが近くにいたのはちょうどいい。君と話がしたいと思っていたんだ」
ちらちらと乙骨の学生証を見せびらかしていた夏油が、おもむろに足を組み替えて星良を見下ろす。
「ねぇ、星良ちゃん。私と来ないかい?」
「え……?」
突然 話の矛先が向けられ、星良は思わず面食らった。
「星也君、いい加減 限界だろう? 非術師の負の感情で生まれる呪霊は、祓っても減ることなく増え続ける一方。そのくせ、自分たちは助けを待つばかり。一緒に非術師のいない、術師のための世界を作らないかい? 七海と灰原も、歓迎するよ」
手を差し出してくる夏油に、二人は戸惑った様子だ。
「夏油さん、なんでそんな……」
高専時代、灰原は夏油を慕っていた。言葉だけでは信じられなかった現実が、今 目の前にある。胸を痛めるのも無理はないだろう。
「君たちのためでもある。これは大義だよ」
夏油の言っていることが理解できないわけではない。
星也も精神的にかなり参っているのは分かる。彼は何でも背負ってしまうから。人の感情も、命も……。
「星良ちゃん……」
「灰原」
呼びかける灰原を七海が止める。
バクバクと鳴る心臓を宥め、星良は務めて笑顔を作った。
「ごめんなさい。あたし、夏油さんとは行きません」
きっぱりと断言した。微塵も、揺らぐことなく。
「星也は今 ギリギリのラインで踏ん張ってる。それは、あの子の強さなんです。あたしが蔑ろにしていいことじゃない」
自分にできることは、夏油に与(くみ)して非術師を殺して回ることではない。
星也の帰る場所として在り続けることだ。