第43章 それはとんでもないトロイメライ【呪術廻戦0】
「誰……⁉︎」
振り返ると、犬と狼を掛け合わせ、目がギョロギョロとした不気味な呪霊がこちらを見ている。
「呪霊……?」
呪力から見て二級。一瞬で終わらせられる。
星良はあらかじめ認(したた)めておいた呪符を取り出した。
灰原も折り紙を、七海もバッグから鉈を取り出して構える。
だが、突然 呪霊が身を翻し、人気のない方へと走って行った。
「逃げた!」
「灰原、待ってください。様子がおかしい」
七海の言う通り。明らかに誘われている。
「報告、した方がいいでしょうか?」
できれば、早く【帳】が下りている方へ行きたいのだが、目の前の呪霊を放って置けない。
「星良さんの胸騒ぎが当たっているのかもしれません。五条さんには連絡をしておきました。何が出るか分かりません。三人で行きましょう」
七海の指示に灰原と揃って頷き、三人は慎重に呪霊を追いかける。
やがて行き止まりにたどり着き、星良たちは呪霊を追い詰めた――……はずだった。
「懐かしい顔ぶれだね」
見上げれば、隣の低いビルの出っ張りに男が座っていた。襟足の長い、僧侶のような袈裟を身に纏った男だ。
「夏油さん⁉︎」
驚愕の声を上げる灰原に、彼は高専の頃と変わらない穏やかな笑みを浮かべた。
「久しぶり、灰原。七海と星良ちゃんも、元気そうで何よりだ」
――特級呪詛師 夏油 傑
分が悪い。相手は【呪霊操術】の使い手で、こちらは三人。飼っている呪霊には当然 特級もいるだろうし、そうでなくても、数で押されれば確実に負ける。
七海が五条に連絡をしてくれているし、気づいて駆けつけてくれればまだ勝機も……。
「呪詛師になったあなたが、こんなところで何を?」
臨戦態勢をとったまま、警戒した七海が声音で尋ねる。