第5章 アレグレットに加速する心【自分のために】
ふーん、と気のない相槌を打ち、伏黒は缶コーヒーに口をつけた。
こんな小さなことでヤキモチを焼くのもバカらしいとは思うが、面白くないのだから仕方がない。
「到着してはいると思うけど、学長との面談があるだろ。それに受からなきゃ、入学はできねぇ」
「ユージは受かるよ。絶対」
絶対。
詞織は勘が鋭い。悪い予感も然り。良い予感も然り。
詞織が"絶対"と言ったことが外れたこともない。
オレンジジュースを飲む詞織に、伏黒は眉を顰める。
「……ん? 何、その顔。機嫌が悪いの?」
「悪くねぇよ」
振り返った少女に短く返し、伏黒は残りのコーヒーを飲み干した。
「……ふーん」
小首を傾げる詞織をそのままに、伏黒は先を歩く。
そして、部屋の前まで差し掛かって、「げ」と顔を顰めた。
「あ、ユージ!」
ててて、と効果音がつきそうな小走りで、詞織が虎杖に駆け寄る。
「お、詞織! 伏黒も! 今度こそ元気そうだな!」
二人に気づいた虎杖が片手を上げて応じた。傍には五条の姿もある。
おそらく、虎杖を寮へ案内したのだろう。
「隣かよ。空室なんて、他にいくらでもあったでしょ」
「賑やかな方がいいでしょ。よかれと思って」
ありがた迷惑。授業と任務で充分だ。
「いいな……わたしも部屋 近い方がいい。先生、ダメ?」
「う〜ん……『いいよ』って言ってあげたいんだけど、こればっかりはね」
唸る五条に、伏黒も内心で頷く。
これ以上、詞織の部屋が近くなったら、自分の理性が崩壊してしまう。それに、心臓も保たない。