第5章 アレグレットに加速する心【自分のために】
自販機で詞織にオレンジジュース、自分に微糖の缶コーヒーを買って部屋に戻る。
学生寮は、大きな階段を挟んで分かれているだけで、男女とも同じ建物内だ。
トイレは備えつき、風呂は男女別の大浴場。鍵は自己管理。
一般のマンションやアパートととさほど変わらないセキュリティだ。
鍵さえ掛けておけば、誰も自分の空間に入ってくることはできない。
仮に無理やり侵入したとしても、この寮に住むのは、学生とはいえ実戦経験のある呪術師。返り討ちに遭うのがオチである。
まぁ、詞織の部屋に無断で侵入しようとする輩がいれば、すぐさま【玉犬】をけしかけ、地獄の果てまで追いかけるつもりだが。
「そういえば、ユージはもう着いたかな?」
「ユージ? ……あぁ、虎杖か」
一瞬誰かと思った。
おそらく、今朝には到着しているのではないだろうか。
「っていうか、下の名前で呼ぶわけ?」
少しムッとして尋ねれば、少女は怪訝な表情をしつつ、「うん」と頷く。
「『イタドリ』より『ユウジ』の方が、文字数が少なくて呼びやすい」
さらに呼びやすさを極めて『ユージ』なわけか。
確かに、五条を呼ぶときも、『ゴジョウ先生』というより、『ゴジョーセンセー』が近い。
二年に在籍している狗巻のことは『棘くん』、禪院 真希は『真希さん』、乙骨は『ユータくん』。
伏黒を『メグ』と呼ぶのも、『その方が呼びやすいから』。
詞織に言わせれば、『親しみを込めて呼びやすくしている』らしい。