第42章 鮮明なリバーブ【呪術廻戦0】
「ただいま」
「星也さん、おかえりなさい」
――浦見第三高校一年 伏黒 津美紀
ニコリと笑う津美紀に、肩の力が抜ける。さりげなく手を差し出してくれる彼女に、星也はコートを預けた。
「呼び出し、大丈夫でした?」
「巻き込まれただけだからね。少し嫌味を言われたくらいだよ」
ありがとう、と頭を撫でようとして、星也は触れなかった。キョトンと目を丸くして、津美紀は少しだけ寂しそうに笑った。
津美紀の気持ちは分かっている。自分に向けられた感情に。
だから、距離感が分からない。
「あ、兄さま! おかえりなさい!」
――浦見東中学三年 三級呪術師 神ノ原 詞織
「おかえりなさい、星也さん」
――浦見東中学三年 三級呪術師 伏黒 恵
「ただいま。詞織、恵」
ぎゅぅっと抱きついてくる可愛い妹を抱きとめる。いつも仏頂面の伏黒も、こういうときは柔らかい表情をする。
「おかえり、星也。ふわぁ……」
――呪術高専四年 準一級呪術師 神ノ原 星良
「姉さん、帰ってたの?」
「うん……任務 終わってすぐ寝てた……」
階段から降りてきて、星良は椅子に座った。
「姉さま、疲れてる?」
「ううん。詞織と恵がいればすぐ復活するー」
大きく広く手を広げ、星良が詞織を抱きしめる。続けて、すぐ後ろにいた伏黒もガシガシッと頭を撫でられていた。
「星良さん、髪がぼさぼさになります」
「いいじゃない。どうせ後でお風呂に入るんだから」
「あ、恵も詞織もズルい。星良さん、私は?」
「もちろん、津美紀も。可愛い妹だもん」
星良の向かいに座り、じゃれる四人を見ながら、星也の気持ちは和やかになる。
ここにいると、何もかも忘れられる。
呪術師も、呪霊も……戦いの日々も……何もかも……。
いや、ダメだ。
忘れちゃダメだ。
今まで助けられなかった人。これから助けられない人。
一瞬でも一秒でも――自分の罪深さを忘れてはダメだ。