第42章 鮮明なリバーブ【呪術廻戦0】
「小さい頃、里香ちゃんに『大人になったら結婚する』と言われました。僕は里香ちゃんのことが好きだったから、『僕たちはずっと一緒だね』と答えたんです。もしかしたら、呪いをかけたのは里香ちゃんじゃなくて……」
「その逆。呪ったのは君の方かもしれない――……というわけか」
最初に生じた違和感――【折本 里香】がなぜ特級になるほどの呪霊になり得たのか。
もしその要因が乙骨だったなら……なるほど。その方が説得力はある。
「これは持論だけどね、愛ほど歪んだ【呪い】はないよ」
「歪んだ、【呪い】……」
――「詞織をころせるわけないじゃない! ころしてやる! 詞織のかわりにオマエを! ころしてやる! ころしてやる! ころしてやる! オマエも! オマエたちも! このセカイを! 詞織以外! みんなみんなきえてしまえ!」
まだ、鮮明に思い出せる。
自分たちの、神ノ原一門の闇が生み出した【呪い】を。
すると、乙骨が不意に己の左手を握りしめた。
「先生、星也さん」
名前を呼ばれ、星也の意識が現在に戻る。
「――僕は呪術高専で、里香ちゃんの呪いを解きます」
呪いを解く――詩音も、本来ならば解かなければならない【呪い】だ。詞織の立場を考えれば、今すぐにでも解いた方がいいだろう。
詩音の解呪は難しくない。制御状態の詩音の強さは一級相当の呪霊。星也や五条でなくても祓える。
そうしないのは、詞織が望んでいないからで、同時に星也も負い目があるから。
だから、星也は祓わなくても問題ないと思わせるために、詩音へいくつも“縛り”を課した。
決意に満ちた乙骨の表情に五条は嬉しそうにする。
けれど、星也は詩音のことを考えてしまって、何も言わず静かに沈黙した。
* * *