第5章 アレグレットに加速する心【自分のために】
「あ、ぁ、え、ぇっと……! さ、寂しくて……! そ、そしたら……メグが! メグならって……!」
これほど心を乱して慌てる詞織を見るのは、どれくらいぶりだろうか。
そして、そうしたのが自分だということが嬉しくて、伏黒は苦笑する。
混乱が極まって墓穴を掘りまくる少女が可愛い。
「星也さんも星良さんもいただろ?」
意地悪く聞けば、「だって!」と詞織は反論する。
「こんなカッコ悪いところ、メグにしか見せられないよ!」
ほら、また。
たった一言で、こちらを喜ばせてくる。
伏黒は「はいはい」とぶっきらぼうな言葉で心を隠し、ベッドを降りた。
軽く黒いスウェットのシワを伸ばし、詞織を振り返る。
薄手の白いシャツワンピースタイプの寝巻きに、淡い桃色のロングカーディガンを羽織っただけのラフな姿。
進展しない関係にやきもきするも、詞織がこれほど心を許しているのは自分だけなのだと、優越感を抱いているのも確かで。
今はまだこのままでいいか、と悠長なことを考える。
「なんか飲むか? 奢るけど」
「パイナップルジュース」
「あの自販機、オレンジしかねぇだろ」
「じゃあ、それで我慢する」
そんな他愛のない会話をしながら、二人は部屋を出た。
* * *