第41章 青き春はドレンテにひび割れて【玉折】
「彼は五条 悟。五条家 当主の力で君の死刑を経過観察まで引き下げた」
『は? なんでそんな低く……あたしを舐めてるの?』
殺気立つ詩音に、「そうじゃない」と星也は首を横に振る。
「君には“縛り”を課す。一つじゃなく、『脅威だから殺せ』なんて誰も言えないように徹底的に」
『そんなこと……』
「嫌ならこの話はナシだ。君は詞織と共に死ぬ」
『詞織と死ねるなら本望だわ』
「でも、君は詞織のことが好きだから、嫌とは言わないだろう?」
グッと詩音が奥歯を噛み締め、射殺しそうなほどキツく星也を睨みつけた。
……神ノ原にはシスコン・ブラコンの血でも流れているのか?
『あたしを殺さないの? たくさん殺したのに……それでも、あたしは……詞織と……一緒に……』
少しずつ、星也を睨みつけていた詩音の瞼が震える。紅い瞳の焦点はブレ、声からは先ほどのような覇気もなくなってきた。
コイツ、なんかしたのか……?
そこでふと、机に置かれた香炉に気づく。微かに星也の呪力を纏っている。焼かれているが、呪符もあったようだ。
香に詩音にだけ効くよう、思考を鈍らせる術を掛けていたのだろう。用意周到だな。
「詩音、よく聞いて。『詞織が君を愛する限り、君は詞織を裏切らない』。『君が愛する限り、詞織も君を愛する』」
『……裏切らない……だって、あたしは詞織を愛してる……』
「『詞織の命令には必ず従うこと』。『非術師を攻撃することも禁じる』」
『……はい……』
「『意思の交代は認める。ただし、詞織が求めたらすぐに主導権を戻すこと』」
『……はい……』
「『許可がない限り、君の呪力を制限する』」
『……はい……』
「『神ノ原 星也に誓いを』」
まるで何かに操られるように詩音は返事を繰り返した。そして、瞼を閉じる。