第41章 青き春はドレンテにひび割れて【玉折】
買い物で新宿まで足を伸ばした家入は、周りのサラリーマンの戸惑いの視線を浴びながら喫煙スペースに入った。
ポケットから取り出したタバコから一本 咥える。
「火、いるかい?」
聞き慣れた声に顔を上げると、「やぁ」と夏油がさっぱりとした笑みで手を上げた。
「犯罪者じゃん。何か用?」
「運試しってとこかな?」
「ふーん?」
ここしばらく、ずっと思い詰めた表情と空気を纏っていたというのに、今日の彼からそれは感じられない。色々な柵を振り切ったのだろうか。
夏油に火を借り、家入はタバコをゆっくりと吸い込んで、煙を吐き出す。
「一応 聞くけど、冤罪だったりする?」
同級生の離反という衝撃は、家入も夜蛾たちと変わらない。
まぁ、一番 信じたくないと思っているのは、きっと五条だろうが。
冤罪――できればそうであってほしいと期待しての問いだったが、夏油は「ないね、残念ながら」と笑みさえ浮かべながらはっきり答えた。
両親を含め、百名以上の非術師を殺したとは思えないほど邪念のない笑みだ。
「重ねて一応。なんで?」
よく五条とバカ騒ぎをしていたが、夏油の思慮深さは知っている。意味もなくこんな大それたことはしないはず。
「術師だけの世界を作るんだ」
「ははっ、意味 分かんねぇ」
前言撤回。やっぱ バカだったな、コイツ。
「子どもじゃないんだ。誰でも彼でも理解してほしいとは思わないさ」
「どうせ誰も理解してくれないって腐るのも、それなりに子どもだと思うけど?」
家入は携帯を取り出し、五条へ電話をかける。夏油はそれを止めることなく、攻撃することもなく、静かに去って行った。
「あ、五条? 夏油、いたよ」
『どこだ⁉︎ オマエ、今日 新宿に行くっつってたよな⁉︎ そこか⁉︎』
捲し立てるようにギャンギャンと電話口で叫ぶ五条に、「うるさい」と家入は眉を顰める。
「そ、新宿」
『引き止めろ!』
「ヤダよ。殺されたくないもん」
そう言うと、電話の向こうで五条が舌打ちをした。
『……アイツ、なんか言ってたか?』
「ん? 術師だけの世界を作るとか、バカみたいなこと言ってたけど?」
五条の息を呑む気配が伝わる。やがて、電話はブツッと音を立てて切れた。
* * *