第41章 青き春はドレンテにひび割れて【玉折】
「……は?」
高専の廊下で夜蛾に呼び止められ、話を聞いた。
だが、その内容は到底 理解できなかった。意味が分からなかったわけではない。脳が、理解を拒絶していた。
「何度も言わせるな。傑が集落の人間を皆殺しにし、行方をくらませた」
「聞こえてますよ」
だから、「は?」と言ったのだ。
なんで そんなことになっているんだ、と。
「……傑の実家はすでにもぬけの殻だった。ただ、血痕と残穢から、おそらく両親も手にかけている」
「――ンなわけねぇだろッ‼」
カッと頭に血が昇り、全てを否定するように怒鳴る。
――「『弱者生存』──それがあるべき社会の姿さ。弱きを助け、強きを挫く」
――「前から思っていたんだが、一人称『俺』はやめた方がいい。特に目上の人の前ではね。歳下にも怖がられにくい」
――「いい。意味がない。見たところ、ここには一般教徒しかいない。呪術界を知る主犯の人間は逃げた後だろう」
誰よりも正しかった。
誰よりも非術師を守るために戦っていた。
そんな彼が、人を傷つけるわけがない。
それなのに――……。
悟、と名前を呼ばれた。
ハッと我に返ると、見たこともないほど憔悴した様子で、夜蛾が頭を抱える。
「俺も……何が何だか分からんのだ……」
グッと奥歯を噛み締めるも、こんな姿の担任にこれ以上 何も言うことができなくて。
五条は「クソッ!」と悪態を吐き、現実から目を背けるようにその場を去った。
* * *