第40章 正しさに混ざるノイズ【玉折】
「……七海さん。術師の命は紙みたいに軽いけど……だからって諦めていいわけない。皆が死なない方法なんてないけど……手を伸ばして助かる命は助けたい。そうでしょう?」
願って叶うような、都合のいい世界ではないけれど、諦めなければ繋がる命があると信じたい。
そう続けて、星良は七海の顔を上向かせた。星也の方を指さす彼女に、夏油もそちらを見る。
そこで、ゆっくりと灰原の瞼が開き、しばらく視線を彷徨わせるのが見えた。やがて彼の瞳が七海を捉え、ふにゃりと力なく笑んだ。
「七海、生きてるかー……?」
「……それは……こちらの台詞です……」
掠れた声で言う七海の頬を、一筋の涙が伝った。抱きしめる星良に、七海も縋るようにして返す。
「――【眠れ】」
言霊で灰原を眠らせると、星也の小さな身体が傾いだ。その身体を夏油は抱きとめる。
「星也君、お疲れさま。ありがとう」
「……僕は、僕にできることをしただけです」
そうか、と小さく返事をして、夏油は眠る灰原を見つめた。
――術師というマラソンゲーム。
今回は助かった。だが、死んでいてもおかしくはなかった。
目を閉じると、自分の周りで星也が、星良が、七海が、灰原が、硝子が――そして五条の死体が積み上がっていく。
割れるような拍手が耳の奥で鳴り、嬉しそうな笑みが瞼の裏に蘇る。まるで、仲間の……自分たちの死を嗤っているように見えた。
このマラソンゲームの果てにあるのが、仲間の屍だったとしたら――……?
星也に触れる手が震える。
心配そうに見上げてくる少年の視線に、夏油は気づかなかった。
* * *