第40章 正しさに混ざるノイズ【玉折】
【記録 二〇〇七年九月 ■■県■■市(旧■■村)】
任務内容
村落内での神隠し、変死。
その原因と思われる呪霊の祓除。
* * *
「……これは、なんですか?」
牢屋にまだ年端もいかない二人の姉妹が閉じ込められていた。星也や星良よりもまだ幼い。
日頃から殴られているのか、顔はひどく歪んでいて目も当てられない有り様だった。
夏油の問いに、ここまで案内した村の代表だという夫妻が首を傾げる。事件はまだ終わっていないと言い張る二人について来たのだ。
「何とは? この二人が一連の事件の原因でしょ?」
「違います」
「この二人は頭がおかしい。不思議な力で村人をたびたび襲うのです」
「事件の原因は、もう私が取り除きました」
もう、この二人の言葉が自分と同じ日本語であることすら信じられなかった。それくらい自分の言葉は彼らに伝わらず、彼らの言葉も理解できない。
「私の孫も、この二人に殺されかけたことがあります!」
「それはあっちが……っ!」
夫人の言葉に、ガタンと姉妹の片割れが木製の格子を掴んで言い募ると、夫人は口汚く姉妹を罵った。耳障りな雑音に吐き気がする。
呪術を知らない非術師による迫害。幼い子どもにここまで……。
夏油は牢に近寄り、指先から小さな呪霊を出した。
『だ……だい、大丈夫……』
呪霊の言葉に、姉妹は固く身を寄せ合いながら、警戒した視線をこちらに向ける。
――「非術師を見下す君、それを否定する君。どちらを本音にするのかは――……」
「皆さん、一旦 外に出ましょうか?」
――「……君がこれから選択するんだよ」
由基の言葉が蘇る。
この瞬間、夏油の中で心が決まった。
●担当者(高専三年 夏油 傑)派遣から五日後――旧■■村の住民112名の死亡が確認される。
●全て呪霊による被害だと思われたが、残穢から夏油 傑の【呪霊操術】と断定。
●夏油 傑は逃走。
――呪術規定 九条に基づき、呪詛師として処刑対象となる。