第40章 正しさに混ざるノイズ【玉折】
「なんてことはない、二級呪霊の討伐任務のはずだったのに……ッ!」
珍しく声を荒げ、七海が「クソッ!」と悪態を吐いた。夏油は医務室の壁際にあるパイプ椅子に彼を座らせる。
「七海さん……」
星良が心配そうに声をかけ、水で濡らしたタオルを渡した。七海はそれで目元を押さえ、深く深く息を吐き出す。
家入は大型任務を終えた術師の部隊の治療に派遣され、こちらへ来られない。
「産土神(うぶすながみ)信仰……アレは土地神でした……一級案件だ……ッ!」
そう言いながら、七海は悔しそうに奥歯を噛み締めた。
たった二日前だ。任務で遠出をすると灰原が話していたのは。
あれほど元気に土産の話をしていた灰原は、ベッドの上で固く目を閉ざしている。
「星也君……助けられるかい?」
「……約束はできません。それでも……やります」
星也は上着を脱ぎ、服の袖をまくって印を結んだ。
「……【薬師世尊に帰命し奉る。瑠璃光の王、真実に至りて示す者、敬意を払われし者、宇宙の遍く全ての現象を知る者よ。四百四病をも癒す妙なる医薬、霊薬、偉大なる秘薬を此処に顕現し給え……オン・ビセイゼイ・ビセイゼイ・ビセイジャサンボリギャテイ・ソワカ】……」
七海と灰原の任務――そこに、事前調査で判明していたものよりも強力な呪霊が出現した。
村人が信仰を疎かにし、ぞんざいに扱ったことで神の怒りに触れ、呪霊へと転じた。状況の本質を見誤り、初動調査の筋を誤ったことで、呪霊の等級も測り間違えていたのだ。
現場に同行していた補助監督からの連絡に、高専側は急いで五条 悟を派遣。七海たちが負傷している可能性を考慮し、現場近くで任務を終えていた神ノ原 星良にも声がかかったらしい。
灰原は七海を庇って重傷を負っていた。星良の治療では命を繋ぎ止めることしかできず、彼女は急いで弟へと連絡し、五条を残して高専へ帰還した。