第40章 正しさに混ざるノイズ【玉折】
「非術師は嫌いかい、夏油くん?」
九十九の静かな瞳に、見透かされている気分だった。そう思って、少し躊躇いながらも答える。
「……分からないんです……」
胸の奥でずっとくすぶっている、モヤモヤとした……ドロドロとした……形容しがたい、得体のしれない“何か”。
初めてそれを吐き出した。会ったばかりの人間に。
呪術は非術師を守るためにある。そう考えていた。信じていたと言ってもいい。
けれど、最近 夏油の中で、非術師の価値のようなものが揺らいでいる。
弱者故の尊さ。
弱者故の醜さ。
その分別と受容ができなくなってしまっている自分に気づいていた。
「……非術師を見下す自分。それを否定する自分。術師というマラソンゲームの果ての映像があまりに曖昧で……何が本音か分からない」
頭を抱えて心情を吐露する夏油に、九十九は小さく笑う。
「どちらも本音じゃないよ。まだその段階じゃない。非術師を見下す君、それを否定する君。これらはただの思考された可能性だ。どちらを本音にするのかは、君がこれから選択するんだよ」
まだ、どちらも本音じゃない……か。
頭の中にくすぶっている様々な何かが、整理されたような気がした。
「アタシはもう行くよ」
腰を上げ、校舎の外へ向かう九十九を見送る。バイクに跨り、九十九はヘルメットを被ると、ブゥンとエンジンを吹かした。
「じゃあね。本当は五条君にも挨拶したかったけど、間が悪かったようだ。これからは特級同士、三人 仲良くしよう」
そうか。自分と五条が特級になったから挨拶に来てくれたのか。
「悟には私から言っておきます」
そこへ、九十九が「最後に一つ」とゴーグルを下ろしながら口を開く。