第40章 正しさに混ざるノイズ【玉折】
「特級術師――九十九(つくも) 由基(ゆき)って言えば分かるかな?」
「あなたがあの……⁉︎」
聞き覚えのある名前に思わず声に出すと、「おっ、いいね。どのどの?」とはしゃぎ出した。
「特級のくせに全く任務を受けず、海外をプラプラしてるロクでなしの……」
言葉を飾らずに聞いたままを教えると、彼女――九十九は足を開き、だらしなく背もたれに身体を預けてため息をついた。
「アタシ、高専ってキラーイ」
拗ねたのか? これが……特級?
およそ呪術師と思えない態度と発言に戸惑っていると、彼女は「冗談」と小さく笑う。
「でも、高専と方針が合わないのは本当だ。ここの人たちがやっているのは『対症療法』。アタシは『原因療法』がしたいの」
「原因療法?」
聞き返すと、彼女は頷く。
「呪霊を狩るんじゃなくて、呪霊の生まれない世界を作ろうよってこと」
息を呑んだ。思いつきもしなかったからだ。
呪霊のいない世界――夢物語だ。できるわけがない。
頭では分かっているのに、「もし実現できたなら……」と、心が彼女の言葉の先を求める。
「……少し、授業をしようか」
夏油の表情の変化に気づいたのか。彼女の唇が小さく弧を描く。
そもそも呪霊は、人間から漏出した呪力が澱のように積み重なって形を成したもの。
すると、呪霊の生まれない世界の作り方は二つ。
①全人類から呪力を失くす。
②全人類に呪力のコントロールを可能にさせる。
指を立てながら、九十九は続けた。