第40章 正しさに混ざるノイズ【玉折】
「夏油さんは大丈夫なんですか?」
「……え?」
一拍遅れて、乾いた声が出た。
「今年の夏は特に忙しいので、少し心配で……初めて見たときに思いました。夏油さんの術式は、精神的にも、肉体的にも負担を強いるでしょう?」
「…………」
星也の言う通り、去年 頻発した災害の影響か、蛆のように呪霊が湧いた。
五条とほぼ同時期に夏油も特級に上がり、任務の危険度や凄惨さにも拍車がかかっている。
「ちゃんと休めてますか? 少し痩せたような気もしますけど……」
「ただの夏バテさ。大丈夫」
心配かけないように星也の頭を撫でる。そうしていると、なんとなく気持ちが落ち着いたような気がした。
「大丈夫って言う人は、言うほど大丈夫じゃないんだって、姉さんがいつも言っています」
「それは星也君のことだね。君はいつも『大丈夫』って言っているだろう? 心配しているのは私の方だよ。この忙しさから、一級以上も人手不足で、一級案件でも比較的 軽めのものは二級の実力派に振っていると聞くよ。君もじゃないかい?」
たとえ子どもでも、術師は等級で判断される。人手不足ゆえに、自分の手に余る任務を請け負うことも少なくはない。
去年の【星漿体】護衛の一件からしばらくして、星也は二級呪術師に昇格した。だが、彼は嬉しそうにすることなく、むしろ悔しそうな表情をしていた。
天内 理子を守れなかったことが、彼に暗い陰を落としているのだろう。
それでも、任務も、呪霊も、救いを求める人も減ることはない。むしろ増える一方だ。