第40章 正しさに混ざるノイズ【玉折】
「もしもーし、星良? 任務 終わった?」
家入の電話の声を聞きながら、夏油は星也にさっき買ってきたペットボトルの水を渡した。
「大丈夫かい?」
「……はい……ありがとう、ございます……」
受け取ったペットボトルを額につけ、星也が頭を冷やす。
家入と星良の会話が気になるのか、ちらちらと彼女の方を意識しているのがよく分かった。大人びて見えるが、こういうところは年相応だ。
「【反転術式】の稽古な。それなら、今 ちょうど星也がへばってるからこっちに来な。見てやるよ」
家入が電話の向こうに話しかける。星良は本格的に家入に師事し、【反転術式】を学んでいた。自己修復は問題ないが、他者を治療することに少し手こずっているらしい。
「硝子?」
電話を切った家入がどこかへ行こうとする。
「ちょっと一服。星良も来るし、すぐ戻って来るよ」
彼女はひらひらと手を振って、去って行く……が、未成年なんだからタバコは吸っちゃダメだろ。
やれやれと嘆息しながら見送ると、不意に星也の夜色の瞳と目が合った。
「傷は痛むかい?」
「いえ、痛みはありますが見た目ほどは……」
五条なりに手加減をしたのだろう。彼が星也に目を掛けているのは、傍目にも明らかだ。
その五条は、学長の夜蛾に呼ばれて職員室へ行った。おそらく、次の任務について。
――五条 悟は“最強”になった。
任務も一人でこなす。
家入は、戦闘手段を持たないことと【反転術式】の有用性から、もともと危険な任務で外に出ることはない。
そうなると、必然的に夏油も一人になることが増えた。
何となく黙っていると、「夏油さん」と星也に名前を呼ばれる。