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夢幻泡影【呪術廻戦/伏黒 恵オチ】

第5章 アレグレットに加速する心【自分のために】


 神ノ原 詞織は、あまり感情が面に出ないようだった。
 嬉しいとか、悲しいとか、驚いたとか、最初のうちは全く分からなくて……それでも、一緒に過ごすうちに、微かな表情の変化に気づけるようになった。

 それに、強く心を揺さぶられたときには、満面の笑みを浮かべたり、悔しそうに唇を噛んだりする。
 そんな風に、大きく表情を変える詞織を見るのが、伏黒は好きだった。


 一度決めたことは頑なに貫こうとする、揺るがない強い意志を持ち、正しいと思ったことは絶対に譲らない。

 眩しいくらいに、高潔で清らかな心。

 向こう見ずなところもあって、突っ走りがち。
 ときどき周りが見えなくなることもあって、ハラハラさせられて……目を離すことができない。


 理不尽を強いる相手には、たとえ自分より強いと分かっていても果敢に立ち向かおうとするくせに、恐怖で手足を震わせてしまう。
 少し打たれ弱いところもあって、自分の力の弱さに泣いてしまうこともあった。

 大切な人が傷つくことにひどく臆病なのに、自分の負う傷には無頓着。


 だから……自分が守ってやらなくては。


 涙を流して己の無力さに打ちひしがれる詞織の小さな肩を抱き寄せて誓った。
 その心は、今でも変わらない。


 気がつけば、学校でも一緒にいる機会が増えて、一緒に呪霊を祓うこともあった。
 詞織の兄姉とも顔を合わせ、津美紀も一緒に食事をしたり、買い物に行ったりもした。
 いつしか、五人で過ごす時間が増え、一緒に暮らすようになっていた。


 伏黒にとって詞織は、まるで空気のような存在。
 傍にいるのが当たり前で、傍にいないと息が苦しくなる。

 メグ、と世界で唯一、自分を呼ぶ声。
 その言葉を耳にするたびに、胸が熱くなる。
 伏黒にとって、唯一無二。

 自分と詞織と、津美紀と星也と星良……五人で過ごす時間は心地よくて、穏やかで、こういうものを幸せと呼ぶのだろう。





 そんな日が――……これからも、ずっと続いていくはずだった。



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