第5章 アレグレットに加速する心【自分のために】
自分と同じ小学一年生。
同じ学校の、隣のクラスの少女。
可愛いとクラスでも評判で名前だけは知っていたが、興味がなくて顔は知らなかった。
特級被呪者で、双子の姉に取り憑かれているのだと五条が教えてくれた。
可哀想な奴ってことか、とどこか他人事のように考える。
そして、神ノ原 詞織と対面して――……唐突に、伏黒の世界が鮮やかに色づいた。
幼心に、こんなカワイイ子が存在することに驚いた。
晴れ間が覗く空の下で、夜の帳を下ろしたような大きな黒い瞳、手足は細くて、肌は白い。どこか人形のような儚さを持つ少女。
五条先生、と舌足らずな澄んだ声音に、心臓がギュッと握りつぶされた。
初めての感情に、伏黒の頭はぐるぐるととりとめなく回る。
「今日から詞織と一緒に、呪術師として頑張る子だ。伏黒 恵くんだよ」
「恵……?」
コテンッと首を傾げる詞織に、伏黒は言葉を呑んだ。
女っぽい名前だと思っているのだろうか。
内心でガッカリと肩を落とす伏黒に、少女は「じゃあ」と続けた。
「それなら……あなたはメグね」
花が綻ぶような笑顔。
本当に、その表現がピッタリと当てはまるような、可憐な笑みだった。
伏黒の中で時間が止まる。
呼吸の仕方さえ忘れてしまったように、息ができなくなった。
真っ赤になった顔を見られたくなくて、伏黒は顔を伏せる。
バクバク、バクバク。
自分はこのまま死んでしまうのではないかと。
そんなことを思うくらい、伏黒の心臓は高鳴っていた。