第39章 覚醒するモジュレーション【壊玉】
禪院家にもあるから知っている。相伝の術式は、あらかじめ先代の築いた術式の取扱説明書のようなものがある反面、術式の情報が漏れやすい。
どんなに強い術式だろうと、情報さえあればいくらでも対処できる。
【無下限呪術】の【蒼】も【赫】も対策済み。
――殺(や)れるッ‼︎
瞬間――何が起こったのか分からなかった。
五条が指を弾くようにして、何かを放つ。
また、強烈な違和感。それすら、呑み込まれた気がした。
空気が吸い込まれ、次には巨大な質量が球状となって弾き出された。
なんだ、これは。
【蒼】でも【赫】でもない。
気がつけば、左腕ごと半身を球状に吹き飛ばされ、背後の建物にまで及んでいた。
「……アンタ、御三家――禪院家の人間だろ。【蒼】も【赫】も……【無下限呪術】のことはよく知ってるわけだ。けど、【虚式『茈(むらさき)』】は知らなかったろ? 死ぬ前にオマエを殺した術を教えてやるよ」
順転と反転――それぞれの無限を衝突させることで生成される仮想質量を押し出す、五条家の中でもごく一部しか知らない術。
目の前に降り立ち、五条が静かに語った。
「はっ……何だそれ……」
――「殺すなら対策が必要……けど、タダ働きはゴメンだな」
そうだ。依頼は五条 悟を殺すことではない。ここで殺したところで『タダ働き』。
【星漿体】の暗殺は済んだ。後は報酬を待つだけ。たとえ五条が生きていたところで報酬は減らない。
逃げれば良かったのだ。いつもならそうしていた。
だが、目の前には覚醒した【無下限呪術】の使い手。おそらく、現代最強となった術師。
否定してみたくなった。
捩じ伏せてみたくなった。
自分を否定した禪院家を。
呪術界を。
その頂点を。
その時点で……負けていたのだ。