• テキストサイズ

夢幻泡影【呪術廻戦/伏黒 恵オチ】

第39章 覚醒するモジュレーション【壊玉】


「……自尊心(それ)は捨てたはずだろ……」

 自分も他人も尊ぶことのない、そういう生き方を選んだはずだった。

 それなのに、脳裏に一人の女が過ぎる。

 愛しそうに赤子を抱く、ただ一人……共に生きようと思えた女が。

 自分と息子を置いて、さっさと死んでしまった女が。

「最期に言い残すことはあるか?」

「……ねぇよ」

 慈悲のつもりか。面倒くせぇ。

 そのはずが、甚爾はふと口を開いていた。

「……ニ〜三年もしたら、俺のガキが禪院家に売られる。好きにしろ」

 なぜ こんなことを言ったのか、分からなかった。

 自分よりマトモな人生を送ってほしいとでも思ったのか?

 金のために売ろうとしたくせに?

 父親らしいことなんて、何一つしたことないだろ。


 意趣返し――あぁ、それが一番しっくりくるかもな。


 相伝の術式を継いだ息子を、禪院は喜んで迎え、担ぎ上げるだろう。胸くそ悪い、醜悪の権化のような家の当主として。

 自分は金をもらえないのに、アイツらばかりが喜ぶ。

 こんなムカつくことはない。

 だったら……自分を殺したこの男にくれてやる方がずっとマシだ。


 その方が、“恵”もずっと――……。


 いじけて唇を尖らせる息子を思い出し、フッと小さく笑った。

 立っているのもままならなくなり、甚爾はその場に倒れ込む。その口元は、微かに弧を描いていた……。
/ 857ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp