第39章 覚醒するモジュレーション【壊玉】
「……自尊心(それ)は捨てたはずだろ……」
自分も他人も尊ぶことのない、そういう生き方を選んだはずだった。
それなのに、脳裏に一人の女が過ぎる。
愛しそうに赤子を抱く、ただ一人……共に生きようと思えた女が。
自分と息子を置いて、さっさと死んでしまった女が。
「最期に言い残すことはあるか?」
「……ねぇよ」
慈悲のつもりか。面倒くせぇ。
そのはずが、甚爾はふと口を開いていた。
「……ニ〜三年もしたら、俺のガキが禪院家に売られる。好きにしろ」
なぜ こんなことを言ったのか、分からなかった。
自分よりマトモな人生を送ってほしいとでも思ったのか?
金のために売ろうとしたくせに?
父親らしいことなんて、何一つしたことないだろ。
意趣返し――あぁ、それが一番しっくりくるかもな。
相伝の術式を継いだ息子を、禪院は喜んで迎え、担ぎ上げるだろう。胸くそ悪い、醜悪の権化のような家の当主として。
自分は金をもらえないのに、アイツらばかりが喜ぶ。
こんなムカつくことはない。
だったら……自分を殺したこの男にくれてやる方がずっとマシだ。
その方が、“恵”もずっと――……。
いじけて唇を尖らせる息子を思い出し、フッと小さく笑った。
立っているのもままならなくなり、甚爾はその場に倒れ込む。その口元は、微かに弧を描いていた……。