第39章 覚醒するモジュレーション【壊玉】
「姉さんと……黒井さんは?」
「【呪骸】で外へ運んだ。星良は医務室、もう一人の女性は……」
夜蛾は言葉を濁したが、おそらく霊安室へ運ばれたのだろう。
「そんな顔すんな。一人でも助けられたんだ。欲張ると誰も助けられなくなるぞ」
家入の言葉に、確かにそうだな、と自嘲した。
そこへ、夏油が目を覚まし、ゆっくりと身体を起こす。
「硝子、夜蛾先生……それに、星也君も……すまない、私の力が及ばなかったばかりに……」
「夏油、【星漿体】は?」
夜蛾が尋ねると、夏油は悔しそうに顔を歪め、静かに首を振った。
「……そうか……」
「申し訳ありません」
夜蛾は夏油を責めることなく、彼の肩を優しく叩く。
「星也君、君にも謝らないと……星良ちゃんが……」
「姉さんは無事です。黒井さんは助けられませんでしたが……」
「……そうか。よかった……」
大きな息を吐き出す彼に、胸が痛んだ。「よかった」というこの単語に、安堵や喜びなどの様々な感情が滲んでいる。
「ところで傑、星也。悟はどうした?」
「僕は五条さんに言われて蠅頭の一掃に……その後のことは……」
「いや、悟はあの男が……殺した、と……」
夏油が目元を覆い隠し、大きな身体を丸める彼の声は震えていた。
不安だったはずだ。
悲しくて胸が張り裂けそうだったはずだ。
目の前で理子を殺され、親友である五条、親しかった星良や黒井の死を聞かされたのだ。
それなのに涙を流す時間も嘆く暇も与えられず、激戦を強いられた。そのときの彼の心労は計り知れない。
「……五条さん……」
五条の死。
考えもしなかった現実――というわけでもないのに、妙に現実感が薄かった。
心のどこかで思っていたからだ。
自己肯定感の塊で、お調子者で、自分勝手なわがままで、突拍子もない思いつきで振り回してくるあの男が死ぬはずないと。