第39章 覚醒するモジュレーション【壊玉】
「――【オン・ビセイゼイ・ビセイゼイ・ビセイジャサンボリギャテイ・ソワカ】……」
印を結んで真言を唱えるが、消耗しすぎたせいで呪力が足りない。
「……どうすれば……」
式神を呼ぶ呪力は残っている。確か、五条と夏油の同級生には、【反転術式】を使える術師がいるらしい。
連れて来て治療をしてもらうか、それとも夏油を運んで治療してもらうか……いい、深く考えるな。結果は同じだ。
急ぐなら【白虎】……は破壊されている。なら、【青龍】で――……。
「――星也っ!」
覚えのある声に顔を向けると、サングラスをかけた大柄な男性――夜蛾 正道がやって来た。父と知り合いで、彼には今も世話になっている。
「無事だったか。よかった」
「夜蛾さん」
夜蛾の後ろから、ショートカットに泣きぼくろのある女性がついて来ている。高専の制服を着ているところを見ると、おそらく学生。
「夏油、派手にやられてんじゃん。そっちの子は?」
「神ノ原 星也です。怪我はありません。あなたは家入さんですか?」
「へぇ……よく分かったね」
夏油に手を翳し、【反転術式】をかけながら家入が言う。
「五条さんと夏油さんに聞いていたので。それに、夜蛾さんはこの状況で、それも【薨星宮】に、ただの学生を連れて来る人じゃない」
「ふぅん……頭良いんだ? 昇降機の近くにいた女の子を治療したのは君でしょ。夏油も治してやればよかったのに」
「蠅頭の一掃と【反転術式】で呪力をほとんど使ってしまって……式神や占(せん)に使えるぐらいしか……」
「あれはお前か。よくやってくれた。ありがとう」
夜蛾の礼に、星也は「いえ」と素っ気なく返した。