第5章 アレグレットに加速する心【自分のために】
小学一年生のときのことだ。
自分を産んだ母親が死んで、伏黒 恵の父親は、娘を持つシングルマザーと再婚した。
母を亡くしたばかりの再婚に、反感を覚えなかったわけではない。
ただ、一つ年上の義姉――津美紀が優しい性格だったのは幸いだった。まるで、最初から姉弟のように接してくれた。
だが、戸惑いの中で始まった生活に慣れてきた頃――父は義母と唐突に行方をくらませた。
何が起こったのか、全く分からなかった。
さらに、追い討ちをかけるようにして、帰ってきたと思った父に連れてこられたのは――禪院家という、知らない屋敷。
大勢の人に囲まれて、自分を議題に話が勝手に進んでいく。
混乱が混乱を呼んで、父がただ、金のために自分をこの禪院家に差し出そうとしているのだと分かって。
自暴自棄になった頭が「もうどうだっていい」という答えを弾き出そうとしたとき。
五条 悟という人物が現れて、助けてくれた。
伏黒が呪術師となることを条件に、その場にいた全員を黙らせたのだ。
呪術師というものが何なのか、そのときの伏黒には分からなかった。
それでも、命を懸けて戦わなくてはならないことは分かった。
呪霊や呪い、呪術師、呪術と様々な説明を五条から受けたが、全く頭に入ってこなかった。
それどころか、なんで父のせいで命を懸ける羽目になるのだと、反発心が芽生える。
そんなとき、五条が伏黒と引き合わせたのが、神ノ原 詞織だった。