第39章 覚醒するモジュレーション【壊玉】
前方には三つのトンネル。どれが【薨星宮】の本殿に繋がる道かは聞いていない。こんなことなら、正しい手順を教えてもらっておけばよかった。
一つ一つ試していては、一生 辿り着けない。
星也は懐から白紙の札を抜き、指先に歯を立てて血を流し、文字を書き綴った。
――【夏油 傑】
夏油の名前にしたのは、生存率が理子より高いと判断したからだ。行き先が死んだ人間では術が発動しない。
夏油の【呪霊操術】は、術師が死んだ後 体内に取り込んでいる呪霊がどうなるか分からない。自分だったら、何の準備もなく殺すことはしない。
あれだけ頭が切れ、五条を警戒していた男だ。呪術に関してそれなりの知識があるとみて間違いないだろう。
石畳に陣を描き、上に夏油の名前を書いた札を置く。
「【闇に失せし者、月に隠れし者、星に紛れし者。この名を縁(よすが)とし、我に汝の行き先を示せ。急々如律令】」
フッと札が浮き上がり、ふわりふわりとトンネルの一つへと飛んでいく。
よかった。【薨星宮】の本殿に行くのに、道を探る【失せもの探し】が使えるか一種の賭けだったが……運がいい。
札を追って、星也は【薨星宮】の奥――本殿へと向かった。
トンネルを抜け、開けた場所へと辿り着く。そして、激しい戦いの痕跡に息を呑んだ。
「夏油さん!」
血だらけで倒れた夏油を見つけ、声をかける。胸元を十字に斬られ、顔面も殴るか蹴るかされたのか、血を流している。
理子の姿はない。石畳に飛沫血痕……怪我をしている、もしくは殺害され、拉致された。
ギリッと奥歯を噛み、星也は夏油の容体を見た。傷自体は星良より浅い。殺さなかったのはやはり、死後の【呪霊操術】を警戒してか。