第38章 襲いくる黒きヴィオレント【壊玉】
「そうか。やはりオマエは死ね」
手を上げて指示を出すと、虹龍が男へ突進する。だが、男は虹龍の口に刀を這わせた。そして、顎から尾にかけて、まるで魚を捌くようにして切り裂いていく姿に驚愕する。
虹龍は手持ちで最高硬度の呪霊。それをいとも簡単に、それも物理攻撃で祓った。
フィジカルギフテッド――恐るべき身体能力だが、呪力はない。つまり、呪具さえ奪えば勝機はある。
夏油は、隠していた口裂女に簡易領域を展開させる。
『ねぇ』
男の動きが止まった。おそらく、こちらは見えていない。
『わた……わタ、わたし……きれい……?』
長い髪に白いワンピース、顔にぐるぐるに包帯を巻いた女の呪霊――質問に答えるまでお互いに不可侵を強制させる。
「あ――……」
口裂女の質問は、肯定でも否定でも即座に攻撃へ移行する。それは男も知っているだろうが、迷うそぶりはなかった。
「そうだな。ここはあえて――趣味じゃねぇ」
口裂女が動く。手に持った血濡れの糸切り鋏をギチギチと鳴らした。男の髪がはらりと切れ、耳から血が流れる。
領域が解除されると、男を取り囲むように巨大な糸切り鋏が取り囲んでいた。
「……そういう感じね」
自分の耳や腕に鋏の刃が添わされ、今にも切り裂こうとしているにも関わらず、男は悠然と立ち、呪霊から十手に似た短刀の呪具を取り出した。
迫る鋏を短刀で軽くあしらう男の背後を取り、夏油は手を伸ばす。