第38章 襲いくる黒きヴィオレント【壊玉】
「【天与呪縛】だろ? 私たち術師と同様に、情報の開示が能力の底上げになることは知っている」
疲労や術式解除直後だったとはいえ、【六眼】を持つ五条が背後を取られるなんてありえない。だが、奇襲相手が呪力を持たなかったのならば納得がいく。
呪力ゼロのフィジカルギフテッド。それが答えだ。
だが、自分が知りたいのはそこじゃない。
「なぜ、【薨星宮】へ続く扉が分かった? 私たちは毛ほども残穢を残さなかった」
情報開示による能力の底上げ――語れば語るほど相手に有利になる。それでも、聞かずにはいられなかった。
自分はもちろん、星良にもそれを徹底させていたのだ。そして、残穢が残っていないことは自分の目で確認している。ここへ辿り着けるはずがない。
「人間が残す痕跡は残穢だけじゃねぇ。臭跡、足跡……五感も呪縛で底上げされてんだよ」
微かな臭いを嗅ぎ分け、目に見えるはずのない足跡まで視認できる。その回答に、別の部分で納得した。
呪力を持たない人間は呪霊を見ることができない。
それなのに、男は虹龍の攻撃を避け、格納型呪霊を連れている。呪縛の底上げが、呪霊を感知できるレベルに至っているらしい。
「途中に女性と少女がいたはずだ。二人はどうした?」
「ん? あぁ。あのメイドと神ノ原の小娘か」
神ノ原の小娘? 先ほども星也を『神ノ原の坊主』と表現していた。こちらのことも調査済みというわけか。
「たぶん死んでる。生かす気も殺す気もなかったけどな。神ノ原の小娘は最期まで頑張ってたぜ。運が良かったら生きてんじゃね?」
分かれたときの二人の姿が脳裏を過ぎる。必死で涙を堪えて笑う黒井と、黒井を気遣って残ると申し出た星良が。