第38章 襲いくる黒きヴィオレント【壊玉】
「ま、呪力のないオレは透明人間みたいなもんだ。でも、一つ問題があってな。オレが呪具を持つと、呪具の呪力で透明人間じゃなくなっちまう」
ペラペラと語る隙をつき、夏油は虹龍に指示を出す。大きく顎(あぎと)を開き、男を食らうべく身体をうねらせた。
「焦んなよ」
パンパンパンッと銃弾が放たれ、正確に夏油を狙う。
それを、虹龍には防がせず、固い体表を持つ小型の呪霊に弾かせた。虹龍はそのまま男と共に壁へ激突する。
大きく砕けた壁から虹龍が退くが、すでにそこには男はおらず、激突した壁の上に立ち、「話の続きだ」とまた語り始めた。
「俺は物を格納できる呪霊を飼っててな。呪具はそっちに入れて持ち歩いてる。皆まで言うな。それじゃ、今度は呪霊の呪力で透明人間ではなくなっちまうってんだろ」
口の中に指を入れ、男は「おぇ」と小さな球体を吐き出す。呪霊に自らの身体を格納させてサイズを小さくし、腹の中に隠していたらしい。
「透明人間は、臓物まで透明だろ。これでオレはあらゆる呪具を携帯したまま結界を素通りできる」
うねうねと格納型呪霊は身体を伸ばし、男の腕から腰にかけて絡みつく。
「はじめに呪具を使わなかったのはそういうことだ。【六眼】相手の奇襲は透明なままじゃねぇと意味がないからな。【星漿体】を先に殺(や)ってもよかったんだが、【六眼】の視界に入るのはリスクが――」
「もういい」
呪霊の口から刀を取り出しながら続けようとする男の話を打ち切らせる。