第38章 襲いくる黒きヴィオレント【壊玉】
「理子ちゃん……?」
彼女の光を失った瞳が、逆に冷静さを取り戻させてくれた。
「……ったく、やっぱ仕込んでやがったか。神ノ原のガキ共、小賢しい真似しやがって。全弾 撃っちまった」
振り返れば、黒い男がだるそうに現れる。手には拳銃が握られていた。
「ハイハイ、お疲れ。解散 解散」
「なんで……オマエがここにいる?」
まるで自分のものとは思えない声が喉から出る。
だってあり得ないだろう。五条と星也が相手をしていたはずなのに、どうして……。
「なんでって……あぁ、そういう意味ね」
一人で納得しながら、ジャカジャカと音を立て、銃の弾を入れ替える。
「神ノ原の坊主は逃がしちまったが……五条 悟はオレが殺した」
ニヤリと口角を上げる男に、頭の中でプツンという音が聞こえた。
「そうか。死ね」
夏油は虹龍と口裂け女を呼び出す。
五条が殺されたこと。
理子が殺されたこと。
心臓は火傷しそうなほど怒りで熱く燃えているのに、頭は驚くほど冷静だった。
弾丸を再装填した男は、得意げに手の中で銃を弄ぶ。
「【薨星宮】と【忌庫】は“隠す”結界だ。入口に見張りは置けない。扉の位置さえ分かれば、後はザル。この時期から術師は忙しくなるし、高専に待機中の術師は少ない。蠅頭 ばら撒いて混乱させてやろうと思ったが……やっぱ神ノ原の坊主は油断ならなかったな。一瞬で祓われると思ってなかったわ」
なるほど。星也は蠅頭一掃のために分かれたのか。その間に五条は……。
怒りに囚われそうになり、フー…と重たい息を吐いてやり過ごした。