第38章 襲いくる黒きヴィオレント【壊玉】
「そこに星也君と星良ちゃんが加われば、敵なんていない」
「けど……せっかくここまで守ってもらったのに……星也も星良も、私のせいで怪我もした。それなのに、役目から逃げるなんて……」
「覚悟――理子ちゃんにそれがちゃんとあったことは分かっている。でも、それは君に選択肢がなかったからだ。考えたこともなかったんじゃないかい? 【星漿体】じゃない自分を」
――「それがあなたの『覚悟』なら、僕は術師として最後までつき合います。そして、もし理子さまが『涙を流す』ことがあるのなら、僕は友人として最後まで力を貸します」
『覚悟』も、『弱さ』も……彼女が負い目を感じないように。自分の意思で選べるように。
「理子ちゃんがどんな選択をしようと、君の未来は私たちが保証する」
静かな沈黙が降り、やがて理子は唇を開いた。
「……私は生まれたときから【星漿体】で……特別で……皆とは違うって言われ続けて……」
理子にとっては、自分が特別なのは普通のこと。危ないことはなるべく避け、同化の日のために生きてきたのだそうだ。
「お母さんとお父さんが事故で死んだときのことは覚えてないの。もう悲しくも寂しくもない。だから、同化で皆と離れ離れになっても、大丈夫って思った」
忘れてしまえば、悲しさも寂しさもなくなる。
どんどん気持ちが遠くなってしまえば……最後には忘れたくなかった思い出も存在しなかったことと同じ。
どんなに辛くても、それは今だけ。
「でも……っ!」
訥々と、一つ一つ溜め込んでいた想いを溢すたび、理子の目からは涙が溢れていく。そんな彼女の想いを、夏油は穏やかな表情で受け止めた。