第38章 襲いくる黒きヴィオレント【壊玉】
「ここが……」
「あぁ。天元様の膝下。国内主要結界の基底。【薨星宮】の本殿だ」
夏油の説明に、理子が息を呑む。
広いドーム状の空間は、古い日本家屋のような建造物が並んでいるが、人の気配はいっさいない。
空間の屋根に近い部分には、トンネルのような入口がぐるりと取り囲み、自分たちが入って来たのはそのうちの一つだ。ドームの中心には注連縄(しめなわ)が巻かれた巨大な御神木がドーム状の空間を貫いている。
夏油はその御神木を指さした。
「階段を降りたら門を潜って、あの大樹の根元まで行くんだ。そこは高専を囲う結界とは別の特別な結界の内側。招かれた者しか入ることはできない。同化まで天元様が守ってくれる」
どういう手段であの男が高専の中にまで入って来たかは分からないが……【薨星宮】へ辿り着くことはもちろん、この結界内まで入ることは不可能だ。
あの男は五条の背後を取り、刃を突き立てた。きっと、簡単に退けることはできない。高専に立ち入られた以上、理子を守る最も有効な手段は天元に預けることだ。
話を聞きながら、理子は黙って俯く。
「……それか、引き返して黒井さんと一緒に家に帰ろう」
「……え?」
顔を上げ、理子が戸惑った表情をしていた。無理もない。まさかこんなことを提案されるなど思わなかったことだろう。
夜蛾は任務を伝える際、『同化』を『抹消』と言った。あれは、それだけ罪の意識を持てということだ。彼は脳筋のくせによく回りくどい言い方をする。
「君と会う前に悟や星也君たちと話し合いは済んでいる」
「星也たちとも……?」
「彼も思い悩んでいたよ。どうしても君を助ける手段が見つからないと……でも、そんなもの必要ないんだ。君が『助けて』と言うのなら、いくらでも力を貸すよ。私も、悟も。星也君も、星良ちゃんも、黒井さんも。大丈夫、何とかなるさ」
――私たちは“最強”なんだ。