第38章 襲いくる黒きヴィオレント【壊玉】
「この感じ……なるほど。オマエ、神ノ原の坊主の姉貴か」
そう言って、男はニヤリと口角を上げる。
護符が間に合わなかったときのために、身体には文字を書きつけてある。ほとんどが護身ための文字だ。
星良は呪符を取り出した。だが、その呪符は発動するより早く男に斬り裂かれ、身体を蹴飛ばされてしまう。
「きゃあ……⁉︎」
「オマエの術式は見切ってる。あの坊主の護符はオマエのだろ。アレには経文も密教の種子も真言も何もない。あったのは【守護】の二文字だけ。つまり、オマエは書いた文字を具現、もしくは実現することができる。札に書いて呪符やら護符にしちまえば、他人の呪力をトリガーにしてオマエが込めた術式が発動する優れもの。だが、文字一つにつき効果は一回……!」
男が馬乗りになって刀を突き立ててくる。バチッ! バチッ! と何度も火花が爆ぜた。
抵抗しようとしても、ビクともしない。どうにか指先を動かそうとしたが、すぐに見破られ、刀の柄で骨を砕かれる。
やがて――ドスッと胸が貫かれた。
「うぁ……っ‼︎」
痛みに身体が反射的に跳ね、さらにもう一度 貫かれた。
「弱ぇくせに手間かけさせやがって。女でよかったな。男ならこんなモンじゃ済まさねぇ」
そう言って男は星良の上から退き、夏油と理子が向かった【薨星宮】の中心部へと足を向ける。
「【縛、鎖】……!」
流れ出た血で石畳に書いた文字から、ジャラッと赤黒い鎖が伸びた。その鎖が男の足を捕えようとしたが、すぐに気づかれて斬り捨てられてしまう。
「ふん。優しく殺(や)ってやったんだ。大人しく死んどけよ」
その言葉は、星良の耳には届かなかった。
まだ意識はある。
それなのに、指先一つ、瞼一つすら動かせず、星良は身体を震わせた。
こんなところで、死ねるわけないでしょ……‼︎