第38章 襲いくる黒きヴィオレント【壊玉】
「ふ……う、ぅ〜〜〜〜……っ」
「黒井さん……」
ずっと、我慢していたのだろう。今までも、先ほども。本当なら縋りついて、「行かないで」と引き止めたかったはずだ。
「星良様……わ、私は……うまく、笑えていたでしょうか……?」
「はい。ちゃんと笑えていました」
震える肩に触れ、抱きしめる。悲しい気持ちに大人も子どももない。
辛いことも、苦しいことも、悲しさも、涙と共に流れてしまえばいい。
そうしたって、今日のことは消えないし、忘れないから。
ようやく悲しみが追いついて、星良も一筋の涙を流した。
そこへ、何かの気配を感じ、「誰⁉︎」と星良は誰何の声を上げる。次いで、ダンッという何かが着地する音と共に、昇降機が破壊された。
星良は慌てて巻物と筆に手をかける。
【守護】の護符は全て星也に渡した。けれど、『だから、死にました』、なんて言うつもりはない。
星良は巻物を準備し、筆に呪力を混ぜた墨を含ませる。何が起こるか分からない。まずは身を守ることを考え……。
瓦礫と砂塵を巻き上げる昇降機から、黒い陰が現れた。
「あなた……」
昇降機で降りてきたのは、五条を背後から奇襲した長身の男。
「そんな……星也と五条さんは? なんで……」
男が消える。どこに、と思う間もなく黒井が倒れた。血飛沫が弾け、石畳を濡らす。
「黒井さ……っ⁉︎」
「他人の心配してる場合かよ」
刀が振り下ろされるのが、やけにゆっくりに思えた。けれど――……。
――バチ……ッ!