第38章 襲いくる黒きヴィオレント【壊玉】
「星良は私の憧れだった。私よりずっと年下だけど、優しくて、いつも周りに気を遣ってて、星也に頼られて、弱さを見せてもらえて……羨ましかった」
「あたしは理子さまのこと、すごいって思ってましたよ。真っ直ぐで、自分に正直で、感謝の気持ちも忘れない。前に星也が怪我したとき、すごく泣いてくれましたね。自分が怪我したみたいに。優しい人だってこともすぐに分かりました」
そんな理子だから、最後まで守ろうと思えた。彼女の心に寄り添おうと思ったのだ。
「星也から伝言を預かっています」
――「それがあなたの覚悟なら、僕は術師として見守ります。そして、もし理子さまが涙を流すことがあるのなら、僕は友人として力を貸します。たとえ何があっても、僕は理子さまを忘れません」
「……ありがとうございました、って」
何かが起こって、自分が別れの場に立ち会えなかったら伝えて欲しいと、そう言われていた。必ず伝えたかったのだろう。
ぼろぼろと、理子の頬を涙が伝う。そんな彼女を、黒井がギュッと抱きしめた。
「星也と星良に会ったのは偶然だったけど……楽しかった。私のせいで、たくさん危ない目に遭わせてごめんね……守ってくれて……一緒にいてくれてありがとう……! 二人のことも……これからもずっと、大好きだから……!」
黒井の腕から出て、理子が手を伸ばす。その指先を絡め、星良は額を合わせた。
「あたしも理子さまのこと、大好きです。あたしからも言わせて下さい。……ありがとうございました」
別れを惜しみながら、星良は夏油に促されて先を行く理子を見送った。その後ろ姿が見えなくなると、途端に黒井が膝を折り、嗚咽を殺すように口元を押さえる。