第38章 襲いくる黒きヴィオレント【壊玉】
【高専最下層――薨星宮 参道】
星良たちが昇降機を降りると、前方には三つのトンネルの入口のようなものがある。
そこで、黒井が頭を理子を呼び、深く頭を下げた。
「私はここまでです」
この先は【星漿体】である理子と術師しか行けない。
「夏油さん、あたしもここで」
黒井一人だけここに残すのは忍びないというのが一番の理由。
どちらにしても、この先は【薨星宮】の中心。仰々しく何人も連れ立って行って、騒がしくしてはいけないだろう。
星良の意図を悟ったのか。夏油も「分かった」と頷いてくれた。
「理子様……どうか……」
声も肩も震えている。グッと嗚咽を堪えているのがありありと分かった。
タタッと理子が駆け寄り、黒井を抱きしめる。
「黒井! 大好きだよ‼︎ ずっと……! これからもずっと‼︎」
黒井や理子から話は聞いていた。理子の両親が事故で亡くなり、身の回りの世話は全て黒井がやっていたと。
二人の関係は主従だが、そこには確かに、家族と同等の絆がある。
黒井は理子をギュッと抱き返し、やがてやんわりと解放し、微笑んだ。
「私も……大好きです……!」
二度と会うことができないのなら、最後に見るのは笑顔がいい。そう話したのを、覚えてくれていたのだろう。
堪えきれない涙が頬を伝う。それでも、二人は互いに笑顔を浮かべていた。
「星良もありがとう。星也にもちゃんとお礼とさよならを言いたかったけど……」
「きっと、星也も同じように思っていますよ」
理子が、手首につけた珊瑚のブレスレットに触れる。星也が沖縄で買ってプレゼントしたのだと聞いていた。
理子には伝えていないが、ブレスレットには星也の守護の術を掛けている。