第38章 襲いくる黒きヴィオレント【壊玉】
「【白虎 変化――縛鎖(ばくさ)】‼」
ジャラッと金属の擦れる音――同時に男の姿を捉える。男の右足には白い鎖が絡まっていた。
「五条さんッ!」
「やってやるぜ。【術式順転――出力最大――『蒼』】‼」
五条が星也のすぐ前に身体をずらす。巻き込まれないようにしてくれたのだろう。
出力を最大にした【蒼】を放たれる。
ゴリゴリと轟音を立てて地面は抉られ、建物も消し飛んでいった。気がつけば、五条を中心にして周囲は更地となる。
「【白虎】がまた破壊されたんですけど」
「術が当たる前に戻せばよかったろ」
そんなことをしたら、せっかく捕まえたのに逃げられるだろ。
だが、【白虎】が捕らえていた男の姿はない。更地にして遮蔽物を失くし、奇襲もできなくしたが……。
「手ごたえがねぇ。森に隠れたか」
「あの術を避けるって……【白虎】が捕まえていたはずでしょ。どんな化け物ですか」
おそらく、拘束されていない左足で【白虎】を蹴飛ばし、鎖を解いて森へ逃げたのだろう。
そこへ、ブブブ…と気味の悪い羽音が耳に届く。そちらを向けば、瞬く間に無数の蠅頭に取り囲まれる。
さらに蠅頭は高専の方にまで向かって行った。あの格納型呪霊の中に飼っていたのか。
「蠅頭をチャフみてぇに使おうってわけね。これじゃ、アイツの位置も分からん」
一人呟く五条に、星也も歯噛みする。
【六眼】を惑わすための囮。
あの男の狙いは理子の暗殺。敷地内全域に及んでいる可能性も考えると、このまま五条を足止めするためと、他の術師の救援を呼べなくするため。