第38章 襲いくる黒きヴィオレント【壊玉】
「アイツ……何かおかしと思ったら、呪力が全くねぇ」
「呪詛師じゃない……【天与呪縛】のフィジカルギフテッドってことですか」
神ノ原の術師には二種類の人間がいる。ただ派生の術式しか使えない術師と、【天与呪縛】として【陰陽術式】を使えない代わりに、高出力で己の派生術式を行使できる術師――両者には歴然とした差がある。
これが、優秀な術師を多数輩出し、御三家に次ぐ権力を持つに至った神ノ原一門の裏の事情であり、五十年おきにしか【陰陽術式】を持つ者が生まれない理由。
何を得て何を失うかは本来 選べないはずだが……星也は祖である安倍 晴明の【呪い】だと考えていた。
まぁ、どういうバグか。下の双子の姉は【陰陽術式】を持って生まれてきたが……妹の方は派生の術式は持つものの、呪力は一般人よりも少し多いというレベル。術師としてやっていくには呪力量が少ない。
双子の弊害なのだろうが、姉の分まで全て妹が被っている状態だ。
それも、【神ノ原の惨劇】で双子の姉が死に、呪力は妹に返ったわけだが……いや、今 考えるのはやめよう。
フィジカルギフテッドのことも知識としては知っている。呪力を持たない代わりに、超常的な身体能力を持って生まれてくる。
だが、呪力を持たないというのは、一般人レベルという話のはず。それが……完全に呪力ゼロ?
呪霊に持っていた刀を呑み込ませ、男は十手に似た短刀を取り出す。格納型呪霊呪霊――男にとっては武器庫というわけか。
男が視界から消える。足音だけは聞こえるが、姿を視認することができない。
くそっ! これじゃ、本当に役立たずだ‼
五条がまた男の背後に術を発動する。後ろに引きずられるようにした男は、五条が立て続けに発動した術を受け、右へ曲がるように建物に激突した。