第38章 襲いくる黒きヴィオレント【壊玉】
「つまり、五条さんを消耗させるための懸賞金作戦。ついでに僕たち護衛の術師を殺せれば上々ってことですか?」
「へぇ、ガキのくせに物分かりがいいじゃねぇか。一人も死ななかったのはクソだったがな」
【盤星教】の刺客――この男、かなり頭が切れる。
おそらく、男は五条の【無下限呪術】と【六眼】のことを知っていた。懸賞金に時間制限を設けたのは油断させるため。
もし時間制限がなければ、五条は理子を『薨星宮(こうせいぐう)』に送り届けるまで術式を解かなかっただろう。
「とりあえず――オマエ、先に死んどけ」
瞬きをした――その次の瞬間には、男が目の前にいた。刀の切っ先が胸に添えられる。
全く何も見えなかったし、気配も感じなかった。
「星也ッ!」
五条の声が聞こえる。貫かれた衝撃で星也は膝を折る――も、バチッと火花が爆ぜ、男の刀は弾かれていた。
「何だ……⁉」
ふらりと立ち上がり、星也は懐から一枚の札を出す。その札は、音もなく消えた。
「ふん、一度 防いだくらいで……」
「一度? 何度だって防ぎますよ。殺されても文句を言うつもりはありませんでしたが、姉に死ぬなと言われたので」
袖口から何枚もの護符が出てきて星也を取り巻いた。【守護】と書かれたそれらの札を一纏めにし、懐に仕舞う。
「さっき星良が渡してたヤツか」
「言ったでしょう。僕を気にする必要はないと。存分にどうぞ」
「はっ。じゃあ、遠慮なく」
五条が手を伸ばすと、男は宙に吸い込まれるようにして吹き飛んだ。鳥居もろとも消し飛んだと思われたが、男は鳥居とは反対側の社の屋根で刀を構える。
速い。五条の術を振り切った上に、移動したのか。