第38章 襲いくる黒きヴィオレント【壊玉】
「星也、これ。必要でしょ。絶対 死なないこと。いいわね」
「ありがとう。姉さんは理子さまと一緒に」
姉から束になった札を受け取り、先へ行くように促した。
「油断するなよ」
「誰に言ってんだ」
夏油の言葉に、五条はサングラスを外しながら軽口を返す。
夏油たちを見送っていると、バスッという音がした。振り返れば、呪霊から飛び出した刃が腹を切り裂き、ドス黒い血を被った男が刀を担いで出てきた。
トンと鳥居の上に着地した男の身体には、赤子の頭部と芋虫の身体を持つ、見覚えのない呪霊が巻きついている。
男の持っている刀は五条を刺したものとは違う。呪霊を祓ったとなると、おそらく呪具。だが、そんなものを隠している様子はなかった。
いったいどこから……なんなんだ、この男は。
「なんだ、神ノ原の坊主は残ったのか。【星漿体】……は、いねぇな」
こちらのことは調査済みというわけか。
だが、目的は【星漿体】――つまり、天内 理子の殺害。
服装からして【Q】に所属している呪詛師ではなさそうだ。
【盤星教】の雇った刺客?
それとも、懸賞金が取り下げられたことを知らない呪詛師?
「できればオマエはさっきので仕留めたかったんだが……ナマったかな?」
五条を指さす男に、五条は「はっ」と嗤う。
「天内の懸賞金はもう取り下げられたぞ、マヌケ」
「俺が取り下げさせたんだよ、ヤセ我慢。オマエみたいな隙がない奴には、緩急をつけて偽のゴールをいくつか作ってやるんだ。【盤星教】の奴らが沖縄に行ったときは笑ったけどな」
ゴクリと星也は息を呑んだ。