第38章 襲いくる黒きヴィオレント【壊玉】
何が起こっているんだ?
混乱しながらも、星也は体勢を低くして警戒した。
男の身体が宙に引っ張られる。五条の意図に気づき、夏油がワームのような姿をした巨大な呪霊を呼び出す。男はそのまま呪霊に呑み込まれた。
「悟!」
「五条さん!」
駆けつけようとした星也たちを、五条は「問題ない」と手を上げて制止する。
「術式は間に合わなかったけど、内臓は避けたし、その後 呪力で強化して刃をどこにも引かせなかった。ニットのセーターに安全ピンを通したみたいなもんだよ。マジで問題ない」
パンパンッと制服の埃を払いながら五条が立ち上がった。
強がっているようにも、余裕なようにも見える。出会って数日の星也には、五条の本心は見抜けなかった。
「天内優先。アイツの相手は俺がする。傑たちは先に天元様のところに行ってくれ」
「僕は残ります」
そう言うと、五条は「あぁっ⁉︎」と顔を顰める。こんな顔をするのは分かっていたが、意思は変わらない。
「ふざけんな。邪魔だ。巻き込まれて死んでも文句は聞かねぇぞ」
「結構。文句を言うつもりもありません。巻き込まれて死にそうだと思ったら逃げるので」
五条は連日 術式を発動し、そのうえ 睡眠もロクに取れていない。問題ないと言っていたが、刺されてダメージがゼロということもないだろう。
足手まといなのは分かっているが、このまま任せきりなのも気分が悪い。
「自分の身は自分で守ります。気にかけてもらう必要はありません。死んでも捨て置いて下さい」
畳み掛けるように言うと、五条は「上等だ」と鼻で嗤った。
視界の端で、男を呑み込んだ夏油の呪霊がピクッと反応を示す。