第37章 ブリランテに照りつける太陽【壊玉】
分かっている。これも五条なりの気遣いなのだと。
海水浴も、自分を海に引っ張り込んでいるのも、理子に楽しい思い出を作ってやろうとしているのだ。
【天后】の背中ではしゃぐ理子を見ながら、星也は努めて頭の中に『冷静』『理性』『平常心』と呪文のように繰り返していた。
「おい、星也! またナマコでキャッチボールしようぜ!」
「動物で遊ぶのは止めて下さい。だいたい、『また』って何ですか。僕はやった記憶がないんですけど」
「さっき顔面で受け止めてたろ。ぷー、くくくっ!」
イラッ……いや、ダメだ。この人は自分より年上で身体も大きいが、中身は子どもなのだ。
『冷静』『理性』『平常心』。
「悟、そろそろ時間だよ!」
夏油の呼びかけに、五条が「もうそんな時間か」と砂浜へ戻る。星也も理子を乗せた【天后】を呼ぶ。
理子に手を貸し、【天后】を戻す間も、彼女はしょんぼりとしていた。その様子に、星也はなんと声を掛けていいか悩むも、何か伝えたくて口を開く。
「なぁ」
それより早く、五条が声を上げた。
「帰るのは明日にしねぇ?」
五条の言葉に、理子がパッと顔を明るくする。「やったぁ!」と黒井を連れて再び理子は海へ向かった。
「だが……」
「天候も安定してんだろ」
夏油が難色を示すも、五条は聞かない。夏油の考えも最もだ。理子には悪いが、彼女の安全のためにも早く高専に連れて行った方がいい。
けれど、五条は「それに」と続けた。
「東京より沖縄の方が『呪詛人(じゅそんちゅ)』の数は少ない」
「え、何て?」
「真面目に話してもらえます?」
夏油と揃って顔を顰めると、五条はからからと笑う。