第36章 リゾルートに揺るがぬ決意【壊玉】
「本体含めMAX五体の分身術式。どれが本体かは常に自由に選択できるんだろ? 本体が危うくなったら安全な分身を本体にする。いい術式 持ってんじゃん。なんでそんな弱いのか意味分からん」
少し離れた位置にいる男に視線を向ければ、警戒した様子で男もこちらを見ていた。
加えて、破壊されるとしばらく分身を出せないようで、四人分の分身を破壊された男が術式を発動させる様子はなかった。
「――【ノウマク・サンマンダ・バザラダン・カン】」
「くっ……あぁぁあぁ……⁉︎」
巻き上がる炎を見て、【帳】もないのに派手にやってんな、とそちらに意識が向く。そして、その光景に目を瞠った。
星也の呪力を捉える。
正(プラス)の呪力――反転した術式だ。
式神を使っていたときには気づかなかった。
【陰陽術式】というのを噂で聞いたことがある。その術のほとんどが反転した術式で成り立つ。
正の呪力は負の呪力同士を掛け合わせるため、呪力消費が激しい――星也の底知れない呪力が術式と結びついていることには気づいていたが……これで納得だ。
星也は初対面の時に『生まれつき強カードを持っている』と言ってきたが……。
――オマエだって同じじゃねぇか。
「お前、なぜ俺の術式を知っている?」
紙袋の男が話しかけてきて、五条の意識が目の前の男に戻る。
「あぁ。お生憎様。目がいいもんで」
そう言って、五条はサングラスを外した。鮮やかな空色の瞳――【六眼】が露わになる。
「俺の術式はさ、収束する無限級数みたいなもんで、俺に近づくモノはどんどん遅くなって、結局 俺まで辿り着くことはなくなるの」
ピタッと上から落としたサングラスが五条の手のひらで止まった。
それを強化すると【無下限】――『負の自然数』といったところか。『マイナス一個のリンゴ』のような虚構が生まれ、吸い込む反応が作れる。
でも、と続けながら、五条はサングラスを掛け直した。