第36章 リゾルートに揺るがぬ決意【壊玉】
「星也のヤツ、思ったよりも戦(や)れんな」
三級――二級は審査中ということだが、あの実力なら問題なく通るだろう。
場数や経験がどれほどのものかは知らないが、それを上回る実力。天才、という言葉だけでは表せない。
五条は星也と呪詛師の女との戦いから紙袋の男に視線を戻した。
目の前で、男がドロリドロリと音を立て、一人、また一人と数を増やしていく。
「ニ、三、四人……皆 背格好が同じじゃ。式神か?」
【太裳】の翼越しに、理子が震えた声で呟いた。さらにまた一人、増える。
「増えた! 五人じゃ!」
驚く理子に答えず、五条は悠然と佇んだ。
「……で? お前ら、コイツが欲しいんだっけ? どこがいいんだよ、こんなガキ」
おもむろに手を開く。強い吸引力が発生し、最初に現れた男とその隣の男を引き寄せ、互いを衝突させる。
ゴシャッと気味の悪い音を立てて二人は消えた。
「式神が消えん! どれが本体じゃ⁉︎」
「式神じゃねぇ。分身だ」
――全部 本体の、な。
ガッと迫る二人の男が拳を打ちつけてくる。無駄のない動き。戦い慣れている。
だが――ビタッ、ビタッと男の拳が五条に触れることなく止まった。
「んだコレ⁉︎」
ググッと押し切ろうとしているようだが、それでも届かない。
「無限。『アキレスと亀』だよ」
古代ギリシャの哲学者が提示したパラドックス。
足の速いアキレスが遅い亀を追いかけても永遠に追いつけないという説だ。
アキレスが亀の元の位置に到達するたび、亀はさらに少し先に進んでおり、このプロセスを無限に繰り返すと、アキレスは永遠に亀を追い越せないと、その哲学者は主張した。
「あぁっ⁉︎」
そんな話は知らなかったようで、逆ギレする男に「勉強は大事って話」と嗤い、男たちの顔面を力任せにぶん殴る。二人分の分身も消えた。