第36章 リゾルートに揺るがぬ決意【壊玉】
「お、いい女じゃん。俺と遊ぶ?」
「冗談。遊ぶならそっちの坊やがいいわ♡」
細い指先で示され、星也は微かに眉を寄せた。
「あなた、呪詛師ですよね。この学校に入るとき、夏油さんの呪霊を祓ったでしょ」
星也の言葉に、五条が「へぇ」と口角を上げる。
まぁ、こんなところまで来て道を塞いできているのだ。狙いがなんなのか、すぐに察することができるだろう。
「【謹請帰還──天空】」
サァ…と砂塵と霧が星也の小さな手のひらに集まり、音もなく消えた。
十二天将【天空】。
広範囲の索敵に長けているが、その分 顕現させておくための呪力消費が大きい。
だが、視覚共有こそないものの、伝心が使える。侵入者の特徴は把握済みだ。
老人が一人、紙袋を被った男が一人、そして……目の前の女。
「坊や、式神使いなのね。遊んであげたいけど……ゴメンナサイ。今日 用事があるのは、そっちの三〇〇〇万のお嬢ちゃんなの」
「三〇〇〇万?」
眉を寄せる五条のポケットで携帯が鳴った。前方の女を警戒しながら、彼が電話に出る。夏油からのようだ。
「……天内の首に懸賞金? なるほど」
なるほど、と星也も思った。
理子に懸賞金――三〇〇〇万。今日 学校に侵入した呪詛師の狙いはその金。
きっと彼女たちだけではない。これからゾクゾクと呪詛師が金のために理子を狙うだろう。
やがて、壁を駆け上がり、紙袋を被った奇妙な男までやって来た。
「三〇〇〇万は俺のものだ」
「あらあら、横取り? 見つけたのはアタシが先よ」
「ふんっ。そんなもの、殺したモン勝ちだろうが」
紙袋の男に、女は赤い唇を歪めて舌打ちした。