第36章 リゾルートに揺るがぬ決意【壊玉】
「素人? 足手纏いのガキ連れて……殺る気なら黙って殺れよ」
舐めきった台詞に腹が立ち、黒井はすぐさま男へ迫った。
「遅……」
目元をこする余裕の態度。
そう。結局 自分は何の力もない一般人だ。
前に、星良に術をかけてくれと頼んだことがある。星良の術式なら、肉体を強化させることもできるのではないかと。
だが、断られた。
急激な肉体の強化は身体への負担が強いのだそうだ。それ以上に、相手の限界を見極められない分、呪力の出力加減も難しいと。
理子を守るためなら、負担などいくらでも耐えられるのに。
「――【符術展開】」
不意に、駆ける黒井の背後から一枚の札が飛来した。
「そっちのガキは術師か。どこ狙ってんだか」
半身をずらして避けた男の足元に札が落ちる。
「【急々如律令】」
瞬間――男の体勢が崩れた。
「何だ⁉︎」
足元を見れば、【粉砕】と書かれた札の触れた地面が大きく割れている。
「ちっ!」
黒井はその隙を見逃さず、モップを大きく旋回させ、男の腹へ突き立てた――男の身体は大きく吹き飛ぶ。
「グァッ⁉︎」
さらに畳みかけるようにモップの柄で男を突き上げ、薙ぎ払い、追い立てていく。さらに勢いよく股間に一撃 お見舞いしてやった。
「う、っ〜〜〜〜……っ‼︎」
地面に伏し、声にならない悲鳴を上げる男を、黒井は冷ややかな目で見下ろす。
「お嬢様から何も奪うな。殺すぞ」
「なんだ。強いじゃないですか」
ゆったりとした足取りで夏油がやって来た。
「星良様の術式のおかげです」
「やだな、あたしはモップの強度を上げただけ。それ以外だと、あの紙袋さんの足元を崩したくらい。勝ったのは黒井さんの実力ですよ」
気を遣ってくれているのだろうか。星良は周りの心の機微に聡い。いつも欲しい言葉をくれる。
だからか、弱いくせに自尊心を満たされるのは。